糖尿病、生活習慣病の専門医院 松本市・多田内科医院
院長業績私の本の日記（３）
火山のふもとで ／ 松家仁之
火山のふもとで ／ 松家仁之（新潮社）★★★★★
秋にふさわしい大人の小説を読みたくなった。しみじみとした情感に満ちた長編小説が良いだろう。文章はもちろん美しくなければいけない。しかも秋空のような明晰で清澄な。眩暈がするような激しい恋も胸を躍らせるサスペンスがなくても、読む人の心を優しく揺すぶってくれる物語がいい。虫の音が物哀しく響いてくる夜半、私は本棚の前に立ち、昨年一度読んだことがあるこの本をためらいもなく抜き取った。北軽井沢の山荘でのひと夏の物語だ。ここには建築家を目指すある青年の夢、師への憧憬と敬愛の情、ひそやかな恋のロマンスなどが瑞々しく描き出されている。物語の最後には、この小説にふさわしい静謐な感動が待ち受けている。行間からは北軽井沢の夏の自然の色が現れ、夜明けに漂う霧や高原の爽やかな風の匂いまでもが立ち昇ってくるに違いない。私は優美な装丁を陶然と撫で回し、そして、最初の１ページをめくった。（平成２９年５月）
（市民タイムス 平成２９年１０月７日に掲載）
秋にふさわしい大人の小説を読みたくなった。しみじみとした情感に満ちた長編小説が良いだろう。文章はもちろん美しくなければいけない。しかも秋空のような明晰で清澄な。眩暈がするような激しい恋も胸を躍らせるサスペンスがなくても、読む人の心を優しく揺すぶってくれる物語がいい。虫の音が物哀しく響いてくる夜半、私は本棚の前に立ち、昨年一度読んだことがあるこの本をためらいもなく抜き取った。北軽井沢の山荘でのひと夏の物語だ。ここには建築家を目指すある青年の夢、師への憧憬と敬愛の情、ひそやかな恋のロマンスなどが瑞々しく描き出されている。物語の最後には、この小説にふさわしい静謐な感動が待ち受けている。行間からは北軽井沢の夏の自然の色が現れ、夜明けに漂う霧や高原の爽やかな風の匂いまでもが立ち昇ってくるに違いない。私は優美な装丁を陶然と撫で回し、そして、最初の１ページをめくった。（平成２９年５月）
（市民タイムス 平成２９年１０月７日に掲載）
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