糖尿病、生活習慣病の専門医院 松本市・多田内科医院

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ドン・ジョバンニになるぞ!

第3回
12月27日
よく寝たと思ったらまだ夜中の1時だ。さすがにまずいと思い、薬をのんだらうまく眠れ、起きたのは5時。6時ごろからお腹が空いて地団太を踏む。6時半食堂に走っていって、ハムとマッシュルーム入りのオムレツを注文すると、卵5個分ぐらいの巨大なやつが出てきた。ケチャップが欲しくなり頼むと、10分後に出てきたのは立派な銀の器に入った熱々の本格的なトマトソースであった。(ウーム、おおげさなホテルだな)
ケルトナー通りをぶらっと歩き、シュテファン寺院をみるだけで心はうきうきする。昼前にインペリアルホテルのカフェへ飛び込む。ドアを開けるとすぐ眼の前にクロークのおばあさんが座って睨んでいるのでいつもびくっとする。最も格式のあるこのカフェはいつも空いているのでありがたい。ソーセージとホットりんごパイでメランジュ(カフェオーレ)を飲む。ソーセージには、普通、からしとわさびの利いた細かいキャベツがついてくるが、デミグラスソースまでついてくるのはここだけだ。
1時、真千さん、来る。ソプラノ歌手であり、旅の案内もする30半ばの麗人である。半年前は髪をアップにしていたが、今日は肩まで垂らしているので印象が変わっている。この女性、遠くから見ればただの美人であるが、実はかなりユニークである。むやみに元気で歯切れがよく、ちょっと油断しているとすぐに仕切られてしまう。ところかまわずしゃべりまくる大声で早口のドイツ語は、ものすごい。しかも、酔うと浪花弁になる。
この半年間日本で聴いた演奏会の報告をする。このわたしのつまらぬ話をウンウンと興味深く聞いてくれる人はめったに、いや、この人しかいない。真千さんからは最近注目されている歌手の話題を聞く。真千さん、有名な美人ソプラノ歌手ヴィクトリア・ルキアネッツにレッスンを受けており、あのハバロッテイと競演している師匠の写真を見せてくれた。先日は日本大使館のパーテイーで、着物を着て君が代などを歌う仕事をしたという。真千さんと音楽の話をするのは楽しいことおびただしく、時間がたつのを忘れる。
今回の旅では特に買い物はないが、セーターや手袋などは現地調達しようと決めていた。「どうせなら地元の人が買い物をする街に行きましょう」という。早足の彼女のあとを小走りになって付いていき、トラムに乗り5つ目で降りると、なるほどそこは観光客がいないにぎやかな街であった。マリアヒルファー通。「あいかわらず歩くのが速いですねえ」「あっ、失礼しました。先生はノロマでしたもんね」つい本当のことを口走った。「これ、お似合いです」「でも、わたしにはちょっと派手ですよ」「いーえ、大丈夫ですわ。絶対これがいいと思います」と言われて買ったシャツもセーターもサングラスも帽子も、結局、ド派手なものばかり。
この時期の風物だという屋台で買った熱々の甘いワインを片手に、レストラン“プラフッタ”へ向かう。ウイーンに来たらプラフッタのターフェルシュピッツ(牛肉のコンソメ煮)を食べなきゃはじまらない。銅の大鍋からスープをとり、ズーズーむさぼり飲む。コンソメスープは大好きである。引き上げた柔らか牛肉には、からし入りりんごソースをたっぷりとのせた。それを赤ワインで胃の腑へ流し込む。一緒に付いてきたポテト玉ねぎ炒めもまずいわけがない。
上機嫌で国立歌劇場へ乗り込んだ。今日の上演はモーツアルト作曲“ドン・ジョバンニ”。席は一階(平土間席)6列の中央で、これ以上はあり得ない特等席である。後ろを見上げれば6階席ははるか彼方に見える。オペラを観に来てオペラグラスを使わないで済むのは初めてのことなり。真千さんすごいね、というと、得意げに鼻をぴくつかせていた。第一幕終了後の休憩時間、赤い絨毯の長―い石段を3階まで手をひかれて登っていくと、絢爛豪華な部屋があった。そこで、シャンペンを飲みながら真千さんのレクチャーが始まった。「ジョバンニ役は私の好きなエデブランコ・ダアルカンデで、ニヒルなところがぴったりのはまり役です。今日のできは完璧に素晴らしい。ドン・オッタビオ役のテノールは目立ちませんが、すごく難しい役をいとも簡単に歌ってしまうところがすごいのです」そういえばテノールのアリアの後、隣で真千さん、大声でブラボーを連発していたっけ。主役のジョバンニは女たらしの大悪党で、最後は自分が殺した騎士長の亡霊に殺されてしまうという物語である。「よーし、今日からワシはジョバンニのように生きるぞー」「ふんっ、先生なんかには無理ですわ」
公演終了後、最後まで拍手して外に出たら、もう10時半を過ぎていた。おっと、いかん。ウイーンフィルのトロンボーン奏者ヨハン・ストレッカー氏と楽屋口で10時に待ち合わせをしていたのである。ストレッカー氏の友人であるK先生から預かってきた大きなおみやげを彼に渡さなくてはならぬ。急いで楽屋口に行ってみると、ウイーンフィル楽団員は全員とっくの前にトンズラしていた。ジョバンニ役のダアルカンデ氏が出てくると、真千さん、駆けずりよって手を握りしめ、熱いまなざしで見つめていた。

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