糖尿病、生活習慣病の専門医院 松本市・多田内科医院

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多田久也のコンサート放浪記

(15)ジョナサン・ノットのブルックナー
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団
ワーグナー ジークフリート牧歌
ブルックナー 交響曲第3番
2014年12月13日 サントリーホール

 一足早いが、東京のクリスマスの雰囲気を味わうのも兼ねて、東京交響楽団のサントリーホール定期公演に行くことにした。開演は午後6時である。終演の8時まで空腹を我慢できないので、少しだけ何か食べておこうと考える。こういうときは大抵、サントリーホール前にある“スープストック”というスープ専門店に入る。オマール海老のビスクとミネストローネごはんセットをテイクアウトし、カラヤン広場の椅子に座って半分ずつ食べた。ひんやりした空気の中で食べると、意外に美味しいのだ。次に来たときもこれにしようと思う。クリスマスのライトアップでカラヤン広場は光り輝いている。開場前のこの時間、この椅子に掛けてぼんやりするのはいいものだ。人々がカラヤン広場に続々と集まってきて、だんだんとコンサートの開演にむけて盛り上がってくる。5時30分、開場を知らせる合図が始まる。ホール入口の上の壁が開き、小人の人形が2人出てきてオルゴールを回すとパイプオルゴールが鳴りだす。私にはこの瞬間がたまらない。心がときめくのだ。サントリーホールに来るということの、この楽しさ、この嬉しさ。このオルゴールは、大ホールのパイプオルガンと同じ素材で造られているという。眼を凝らして数えてみると37本あった。入口前で配っている、ずしりと重いパンフレットの束をもらってから入場し、すぐ右側の売店をひやかすのはいつものことである。この売店は宝の山である。ネクタイやペンダント、時計、ハンカチ、各種文具などの音楽グッズの数々。欲しいものがたくさんあるが、いつかそのうちに、と思うだけで今回も手は出ない。お手洗いを済ませ、開演10分前には席に着くのがいつものやりかたである。会場にどれぐらい人が入っているかなあと、後ろを仰ぎ見る人がいるが、後ろに座っている人々全員がその人の顔を見ていることを当の本人は気が付いていない。私は決して後ろを見ない。
 私はジョナサン・ノットの演奏をコンサートではもちろんだが、CDやテレビでも聴いたことがない。ノットはバンベルグ交響楽団の音楽監督をもう数年間務めており、ブルックナーの演奏は評価が高いので期待している。前半はジークフリート牧歌。予想以上の美しい調べに気分が良くなって、ワインが欲しくなった。休憩時間にクローク側のバーへ行った。サントリーホールには1階のロビーの2か所にバーがある。食べ物はサンドイッチとお菓子のみ。美味しそうな小さいチョコレート菓子がいつも気になっているが、食べたことはない。飲み物は大抵のものは揃っており、シャンパンを置いているのは日本ではサントリーホールだけだろう。しかし、これはちょっと高いから止めて、スパークリングワインを頼んだら、新しいビンの栓をポンと開けてグラスになみなみと注いでくれた。うれしい。今日はなかなかいいぞ。後半はブルックナー3番。演奏会でこの曲を聴くのは初めてなので楽しみである。私はブルックナー好きであるから、当然この曲は良く知っているつもりだ。しかし、演奏が始まってから終わるまで、まるで知らない曲を聴いているような錯覚に陥ってしまった。これは本当にブルックナー3番なのであろうかと。つまり、こういうことである。主旋律が明確に聴こえてこないのである。オーケストラは大編成であり、個々のすべての楽器が音楽を主張しているので、主旋律が完全に埋没してしまい、自分から努力してそれを探しに行かなければならない。大編成の複雑な音楽であるから、その大変なことといったらない。途中から、いったい私はこれまでの人生でブルックナーのなにを聴いてきたのであろうかと、自信を失ってしまった。ブルックナーの交響曲は神に捧げような音楽であるから、私はブルックナーを聴くときは、指揮者の解釈がどうだとか演奏の出来不出来とかいうことよりも、音楽に自分の身も心もゆだね、ひたすら音楽に浸りきるようにしている。したがって、主旋律を探すという不必要な努力を要する演奏は苦痛なのだ。私が持っているこの曲のCDはシューリヒト、スクロバチェフスキ、ヴァント、朝比奈である。いずれも名盤だと思っている。特にシューリヒトはオーケストレーションの達人と言われており、CDで聴くとなるほどいろんな楽器の音が同時にかつ明快に聴こえてきて凄いと感じるが、主旋律はしっかりとしていて音楽はゆるぎない。ちなみに、クライバーもどちらかというとシューリヒトのようなタイプと思われる。一方、カラヤンのようなタイプは、大河の流れのような音楽の中で、個々の楽器よりも全体の響きの方を重視する。ジョナサン・ノットの場合、すべての楽器を強調させようとしたため、音楽は新鮮味が増すかもしれないが、全体のバランスがひどく損なわれてしまったように感じられる。私のこのような印象は正しいかどうかわからない。しかし、少なくとも今日の演奏は好きにはなれない。
 終演後、サントリーホールの出口からカラヤン広場を歩いてすぐ前にあるオオバカナルというパリのビストロへ入った。これもいつもの如し。ここにはワインに合う料理がいっぱいある。大好きな美食家風サラダ(鴨、豚のパテ、ホタテ、生ハム、サーモンなどが乗っている)、ごまクリームソースのイベリコ豚ソテーで、白と赤ワインをいただいた。これでようやく気分は晴れた。
 翌日の電車の中、スクロバチェフスキのブルックナー3番を聴いた。ノットの演奏会とは全く異なり、安心して聴くことができた。そして、いつのまにかまどろんでいた。

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