糖尿病、生活習慣病の専門医院 松本市・多田内科医院

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多田久也のコンサート放浪記

(19)2015 Seiji Ozawa Matsumoto Festivalの報告

(敬称は略す)


8月23日 ふれあいコンサート I
 フェステイバルの名称が変わったが、私にはサイトウキネンという名前が沁みついていて、いまだに自然とサイトウキネンと口に出てしまう。たまたまザ・ハーモニーホールの小さい楽屋口から入ろうとしたら、入口に置いてある灰皿を囲んで、サイトウキネンおなじみのヴァイオリンの豊嶋泰嗣、矢部達哉、大宮臨太郎(いずれも国内オーケストラのコンサートマスター)が立っており、ドキッとした。一種の眩しさを感じながら通り過ぎたこの瞬間、私の気分はすっかりサイトウキネンモードに入った。
 前半はゲルスターの“テインパニと弦楽のためのカプリチェット”、シュワントナーの“ソロ・マリンバのためのヴェロシテイーズ”、フェルドハウスの“ゴールドラッシュ”。いずれも打楽器の音楽である。もう2度と聴くことがないような珍しいものばかり。しかし、私には、こんなのは、まあどうでもいいのだ。目当ては後半のシューベルトの八重奏曲ヘ長調なのである。ヴィオラの今井信子を中心に、ヴァイオリンの竹澤恭子、クラリネットのチャールズ・ナイデイックなどのメンバーで、これこそがサイトウキネンのだいご味だ。私はあらかじめクレモナでCDを手に入れて予習してきたので、曲と演奏を同時に楽しむことができ満足感が強い。この曲はベートーベンの八重奏曲を参考にして作曲されたというが、内容はまさしくシューベルト節といってよい。ひと昔、モーツアルトの音楽が美しさを突き抜けて悲しく聴こえるようになったのと同じように、最近、シューベルトの音楽が心に沁みるようになった。シューベルトの曲には“魔王”や“死と乙女”など暗くて恐ろしいものもあるが、大抵はメロデイーがきれいで明るい。しかし、それらはあたかも美しい天上の音楽のようでありながら、どこかに密やかな死の匂いや悲愴感が漂っているような、私にはそんな気がしてならない。クレモナの金森氏に「私がまだ持っていないシューベルトの隠れた名曲はありませんか」と聞くことが多くなり、彼を少々辟易させているのではないかと心配である。シューベルトの曲の中で、あまり知られていなくて私がとても気に入っているなかに“ロザムンデ全曲”がある。シューベルトらしいメロデイーが満載の楽しい曲だ。正規盤は現在すべて廃盤であるが、私はこのCDを3枚所有しているのが自慢である。

8月24日 ベルリオーズ作曲 オペラ“ベアトリスとベネデイクト”
 小澤監督が腰椎骨折の後遺症で降板したため、料金の2割ぐらいが当日返金された。私はこのようなことは初めての経験である。このオペラを演奏したことがある指揮者数名の中でたまたまスケジュールが空いていたギル・ローズ(アトランタ交響楽団音楽監督)という人が代役に選ばれたという。私は今回このオペラの名前を初めて耳にした。もちろんCDも発売されていない。この珍しいオペラを聴いて、小澤とローズとの相違を認識できる人はこの会場内には誰もいないのではないだろうか。物語の舞台は中世のシチリア島。本当はお互いに惹かれあっているのにいつもケンカばかりしているカップルを、周囲の人達が工夫して結びつけようとするコメデイーである。音楽は予想していたよりわかりやすく、終始美しいメロデイーが続いた。演奏はサイトウキネンオーケストラであるから、悪かろうはずがない。コンサートマスターは今回初めて務めるN響の若きエース大宮臨太郎。歌手陣もレベルが高く不満は何もない。特筆すべきは、何ともきれいな演出だ。舞台は地中海らしい開放的なテラスで、その奥には明るい陽光が海面にきらきらと輝き、夜になると本物かと思わせる黒い海が夜空の星を映えさせていた。小澤監督目当ての聴衆には不満があったかもしれないが、私には音楽、歌手、舞台とも充実した楽しいオペラであった。

8月28日 オーケストラコンサート A
 プログラムが発表されてから、私はこの演奏会が本フェステイバルのクライマックスと位置付けていた。昨年の“ファルスタッフ”に続いて、ファビオ・ルイージがまたしてもやってくれた。凄いぞ、ルイージ。ゲルギエフーロンドン響、アラン・ギルバートーサイトウキネン、インバルー都響、尾高忠明―読売日響など聴いたことがあるが、これだけ熱くエキサイテイングなマーラー5番をかつて聴いたことがあっただろうか。ルイージは一見紳士風だが、作品への感情移入は凄まじい。まるでマーラーが乗り移ったかのように情熱的に、髪を振り乱し全身をばねのようにしならせて指揮をした。サイトウキネンオーケストラも渾身の演奏である。コンサートマスターはここぞという時の豊嶋泰嗣。弦楽器はもちろんすばらしく、幻想的な美しさを出していたが、金管楽器も凄い。世界最強ホルンのラデク・バボラークがひときわきれいな音を響かせて存在感を示し、トランペットのガボール・タルコヴィ(ベルリンフィル首席)、常連でフルートのジャック・ズーン、オーボエのフィリップ・トーンデユル、トロンボーンのシュトレッカーなどが本領を発揮した。バーンスタインは「マーラーの曲を表現するにはオーケストラ全員が、第2ヴァイオリンの最後部の人までも、ソリスト並みの技量でなければならない。」と述べている。とすれば、この凄いオーケストラこそが名演奏を成し遂げられるわけだ。曲の冒頭から彫りが深い響きで、直ちに心が引き込まれ、私は最後まで身動きができないほどだった。ハープと弦楽器だけで演奏される第4楽章をこよなく愛している細君は、冒頭の音楽を聴いた瞬間に、第4楽章も素晴らしいであろうことを確信したという。終演後は最前列まで駆けつけてカーテンコールした。ルイージはまるでマラソンを走った後のような顔をしていた。
 なお、前半のハイドンの交響曲第82番(熊)も躍動感あふれた魅力ある名演であった。もし仮に、今日の演奏会が前半で終わってしまったとしても、私は満足であっただろう。

8月30日 ふれあいコンサート II
 前半は、例年サイトウキネンの名物となったジャック・ズーン スペシャル。バッハのフルートソナタホ長調で、フルートはズーン、チェロはイズー・シュア、ハープは吉野直子というおなじみのメンバーである。次は、ズーン編曲によるショパンのピアノ三重奏曲ト単調で、ヴァイオリンをフルートに換えている。ショパンのこの室内楽曲はロマンチックなきれいな曲だ。十分予習してきたが、ヴァイオリンがフルートに換わると全く別の曲のように感じる。後半は、金管セッションによるアンサンブルの演奏。“椿姫の第1幕への前奏曲”などもあったが、ほとんどがジョン・ウィリアムズの映画音楽である。本来なら、私はサイトウキネンがクラシック以外のものをやるのは大反対である。はっきり言えば、ジャズなどは大嫌いだ。しかし、今日の演奏に限っては良かった。10人の世界的な凄腕金管の迫力は凄まじく、スターウオーズやインデイージョーンズなどのおなじみのメロデイーに心は躍った。
 会場に来ていたウィーンフィルのヨハン・シュトレッカーと2年ぶりに再会した。ホテルまで車で送って行くことにした。楽屋口付近には演奏を終えた凄腕金管達がいて、シュトレッカーが「とてもよかったよ」と祝福していた。ガボール・タルコヴィやラデク・バボラークやワルター・フォーグルマイヤーなどの間に入りこみ、音楽家好きの私は幸福な一瞬だった。

8月31日 シュトレッカー一家と夕食
 ウィーンフィルのトロンボーン奏者、ヨハン・シュトレッカー(56歳)一家と夕食を共にした。若い奥さんアレキサンドラはチェロ奏者で、ベルリンフィルを経て現在ウィーン交響楽団にいる。それに、3歳の息子レオポルドと5歳の娘マリールイーゼ。しゃぶしゃぶが食べたいというので中町のTへ連れて行った。私のエッセイにときどき出現するこのシュトレッカーなる人物が、私といかなる関係にあるのかをまず説明しなければいけない。彼はサイトウキネン初期からのメンバーで、2年前にご逝去された萱場泓郎先生やヴァイオリン造りのI氏と友達なのである。5年前、娘と初めてウィーンを訪れた際、萱場先生の紹介で、シュトレッカーと楽友協会で面会した。このとき、ウィーンフィルのマーラー5番のリハーサルを特別に見学させてもらったことは、私の生涯におけるまたとない幸運であった。それ以来、毎年のように彼と会う機会があった。彼は30年前にウィーンフィルに入団し、現在グラーツ大学の教授も兼ねているという。大柄な好人物である。私達はそれほど英語が達者なわけではないが、音楽のことを話し合い、専門家の立場から多くのことを教えてもらった。とくに人物評が面白かった。彼はカラヤン、バーンスタイン、ベーム、クライバーの指揮で演奏したことがあるのだ。たとえば、クライバー:クレイジーだ。リハーサルでは毎日言うことが違うのでとまどってしまう。かなりお金にこだわっており、“バラの騎士”東京公演6回で出演料は200万ユーロだった。 テイーレマン:コンサートはあまり良くないが、オペラはとても優れている。ウィーン国立歌劇場監督に呼んだらとあなたは言うけれど、性格的な問題もあるし、すこし右翼だしね。バレンボイム:ピアノを全然練習しないんだ。リハーサルはいつも不満ばっかりだ。現在の指揮者ベスト10を私なりに考えて「どう思う?」と示した。10人のうち7人はほぼ賛成してくれたが、サロネンは15位、ヤルヴィは18位、パッパーノは25位と厳しい評価だった。ちなみに、彼は1位ヤンソンス、2位テイーレマン、3位ムーテイとした。「この中にセイジが入っていないが興味深いがどうして?」「5年前なら入るかもしれない」「何番目?」「ぎりぎり10位」「私もそう思う。セイジとは友達で、人間はとてもすばらしいが、音楽的にはトップレベルとはいえない。それにしても、あなたはけっこういいセンスだ」

9月6日 オーケストラコンサート B
 前半はロバート・スパーノ指揮でバルトークの管弦楽のための協奏曲。バルトークは苦手なので予習はしなかった。本番でじっくりと聴こうと思ったが、やはりダメだ。こういうときは、曲ではなく楽器そのものの音を聴くようにしている。後半は小澤征爾指揮のベートーベン2番。長い曲はできないというので、ブラームス4番から急遽この曲に変更された。サイトウキネン初期のブラームスの名演と比較したかったのに残念である。しかし、小澤の登場で開場は盛り上がり、オーケストラの緊張感も高まる。全盛期の猫の動きのような敏捷な動きはできないが、1つ1つの音を丁寧に紡ぎあげていくという必死の思いがオーケストラに伝わり、全員が気迫を持って演奏しているように感じた。この曲は誰が指揮しても同じようなものだが、内面に凝縮するような深遠さはさすがである。全体的な硬い響きと、クレンペラーを思わせるような無機質的なところはやはり小澤らしいが、ベートーベンの曲想ではそれほど違和感を覚えなかった。
 来年の音楽祭では、予算の関係でオペラの上演はないという。そのかわり、ルイージが3年連続で登場する、ルイージが来年どんな熱演をしてくれるか楽しみである。

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