糖尿病、生活習慣病の専門医院 松本市・多田内科医院

多田内科医院 Tel.0263-36-3611
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おおっ トスカよ!

第1回
2010年4月×日
 シャンペンに白ワインに赤ワイン、ついでに食後のポートワイン。音楽を聴きながらまどろんでいるとすぐにウイーン空港に着いた。同伴してくれた23歳のひとり娘、「ついにやってきたね」という。「ああ。ついに来た、来た、来た」と鼻息が荒くなり、誰よりもはやく荷物を降ろし、飛行機の出口へ走った。すぐ国内線に乗り換えてザルツブルグに向かう。いきなり50人乗のプロペラ機になってしまったが、乗務員が長身の金髪美人である。このうらぶれた猫背のヨロヨロおじさん(わたしのこと)、見かけによらずまだ微かに色気は残っているんだからね。舐めるんじゃないよと、いきがってギランギラン光線を発射するが、視線すら合わせてもらえない。しかし、実は、この国ではこの女性が最初で最後の美人なのでした。無意味に興奮状態のおやじに比べ、乗り物に弱い娘はもう青息吐息で、出されたジュースも飲まないで眼を閉じている。心配である。再び酔い止めを飲ませる。1時間の飛行中ずっと眼下の風景が気になってしかたがない。ウイーンにはザルツブルグから汽車で入るので、車窓の景色に期待が高まるのである。ところで、なぜザルツブルグなのかというと、それはモーツアルトが生まれ育った街なんですね。松本市のサイトウキネンフェステイバルよりも何万倍も有名なザルツブルグ音楽祭が毎夏開催されるところである。モーツアルト・ザルツブルグ空港には、ベンツの運転手とショウノ・ジュンゾウ氏が出迎えてくれた。わたしが好きな、1年前に亡くなった作家と同じ名前。40歳ぐらいのインテリで、溢れんばかりの知能が鋭い眼光となって発散しているようだ。「ウイーンは英語でどう発音しますか?」などと間抜けな質問をしたのがいけなかった。「Wienは本来ならVの発音ですが、日本ではなぜかUなんです。その理由はですね、……」などと難しい説明を長々としてくれたが、途中からわけがわからなくなり、聞いているふりをしてごまかした。まあそんなことはどーでもいいのだ。びゅーんと20分ぐらい走り、岩のトンネルを抜けるとすぐに、ホテル“ゴールドナー・ヒルシュ”(金の鹿)に着いた。チェックインの手伝いをしているショウノ氏を肘で押しのけて、「カラヤンが泊まった部屋に泊めてください。カラヤン、カラヤンですよ」「大丈夫ですよ、心配しないでも。もちろんカラヤンもモーツアルトも泊まった部屋ですからね」とあやすように、受付のおばさまはやさしく微笑むのであった。そんなわけはないじゃないか。血走った眼をしてカラヤン、カラヤンと叫ぶ奇妙な東洋人はほとんど相手にされていないようだ。となりでショウノ氏が体勢を後ろに引いて苦笑いをしている。このホテルは、かの高名な大指揮者ヘルベルト・カラヤンゆかりのホテルなのだ。べつに好きじゃないけどね。意外なほどこじんまりした建物で、地味な狭い玄関を入ると中は薄暗く、すべてが古い。絨毯敷きの床がギシギシと鳴り、手で開けるエレベーターに乗って2階の迷路のようなところを進むと、壁に掛かった首だけの鹿たちがこちらを睨んでいる。部屋は39号室なり。

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