糖尿病、生活習慣病の専門医院　松本市・多田内科医院

モーツアルト　天才の秘密 ／ 中野雄（文春文庫）★★★★
　これからの人生で一人の作曲家しか聴いてはいけないと言われたら、私は迷うことなくモーツアルトを選ぶ。モーツアルトのいかにも軽やかで楽しそうな音楽であっても、私には美しさを突き抜けた哀しいものに聴こえるのである。私はこれまでモーツアルトの人物伝を詳しく読んだことがなかった。映画「アマデウス」の中では奇声を発し笑い転げる下品な男が、あのすばらしい音楽を造った同一人物とは思えなかったが、この本を読んでやはりモーツアルトは真面目で品格も備わっていて物事を深慮するような人であることが分かった。彼は天才であることには間違いないが、ただそれだけの理由であれだけのすばらしい音楽を造り出すことができたわけではないという。天才ということに加え、①父親の系統的な教育②実戦経験③他の国の優秀な指導者にめぐり会えたこと④学習能力と自己啓発能力のすばらしさ。こういう要素が全部合わさって革新的な音楽が出来上がったのであろうと、作者は考察している。そして、なにより、厳しい音楽の修行をけっして苦しいとは感じないその素質こそが最も重要な要素であったと推察している。今年、モーツアルト全集が発売され、別売りしているということを聞き、「クレモナ」の金森氏と相談しながら、私の持ってない曲のCDをほぼすべて手中にできたことは久しぶりの快挙であった。（平成２８年１２月）