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多田久也のコンサート放浪記

(1)ダニエル・ハーデイング指揮 サイトウ・キネン・オーケストラ
ダニエル・ハーデイング指揮 サイトウ・キネン・オーケストラ
曲目:シューベルト 交響曲第3番、R.シュトラウス アルプス交響曲
(2012年8月25日 キッセイ文化ホール)

 8月23日、私用でホテルブエナビスタ1階の売店に立ち寄った。風采の上がらぬ小柄なイギリス人が私の後ろに並んだ。私にはすぐにその人がダニエル・ハーデイング氏とわかった。グレーのTシャツを着たごく普通の青年を、サイトウキネンのひのき舞台に立つマエストロだと、私以外のだれが気がつくであろう。50を過ぎたおやじには遠慮も何もあったものではない。「おやっ、マエストロではありませんか」と話しかけると、はにかみながら「Yes」と答えた。「明後日の公演を楽しみにしていますよ」といって握手を求め、やや冗談気味に胸に手を当てて「光栄です」とお礼を述べると、彼も胸に手を当てて「ありがとう、私もです」と微笑んだ。36歳の若きマエストロは感じの良い青年である。私はずっと以前から彼を注目していたのである。若くして世界のメジャーに躍り出たこの指揮者は、素晴らしい俊才と評価されている一方、奇抜な演奏を好むただの目立ちたがり屋だと評する評論家もいる。いったいどうなんだろうと思っていた。一昨年の6月、彼が音楽監督を務めているスエーデン放送交響楽団とともに来日したので、東京オペラシテイコンサートホールへ飛んで行った。メインはマーラーの交響曲1番で、どんなビックリする演奏を聴かせてくれるのかを期待していたところ、テンポの緩急は著しかったけれども、意外にも奇をてらわない真っ向勝負のオーソドックスな演奏なのであった。
  さて、8月25日は33度を超す残暑であった。席は15列右方である。はじめはシューベルトの交響曲3番。演奏会ではあまり取り上げられない作品である。私はカルロス・クライバー(ウイーンフィル)のCDしか聴いたことがない。ハーデイングとサイトウ・キネン・オーケストラは、悲劇的にもはじめから最も高いハードルを私に置かれてしまったようである。当然の如く、第1楽章から、クライバーのような躍動感あふれる小気味よい軽快な響きはない。そのかわり丁寧でメリハリのある演奏にはそれなりのしみじみとしたものが感じられる。終楽章に入ってようやくノリが良くなり、クライバーを彷彿させるような出来となった。
 アルプス交響曲。 実演では初めて聴く作品で、私は名盤とされているアンドレ・プレヴィン、ウイーンフィルのCDを持っているが、いまだじっくりと聴いたことがない。それで前日に、CDの解説を老眼鏡をかけて、各場面と照らし合わせてしっかりと予習をした。当日は各場面とそれらの演奏時間を拡大コピーしたものを持参し、幾度もその順番を確認した。拡大コピーは会場で出会った知人に配ったことは言うまでもない。私は演奏会に行くときは予習をすることにしている。演奏会では作品を聴くというより、演奏者の演奏自体を体験したいと思っているからである。さて、はじまりの「夜」はやや強めの明確な音で始まった。そう感じるのはCDと実演との違いからであろう。「日の出」冒頭のシンバル3つの強打から私は興奮状態に入った。「登山」に入るとオーケストラはぐんぐんと盛り上がり、「森に入る」では後方の会場外からホルンの強奏が響いてきた。これはいいぞ、なかなかいいぞ。今どの場面に進んでいるのかを念頭に入れて聴いていたが、たった約15秒間の「滝にて」と約45秒間の「幻影」を聴き逃し、わけがわからなくなってしまった。「高原の牧場にて」のところでやっと立ち直り、「頂上」のクライマックスに到達する。ここでも3つのシンバルが背筋をびりびりと震わせ、私のスカスカの脳内にバシャーンと響き渡った。音の強弱と各楽器の調和などの微妙なニュアンスはCDでは決して体感できないだろう。最も期待していた「雷雨・下山」の劇的な大音響には打ちのめされてしまった。そして、「終結」の何と上品で美しい調べであろうか。「夜」の最後の音が終わった瞬間、指揮者と演奏者の静止、聴衆の沈黙が10秒続いたのは見事で、その後に湧きあがるような拍手喝さいがはじまった。まるで、サントリーホールで経験するようなすばらしい終焉であった。私はこの演奏会、十分に堪能しましたね。
  サイトウ・キネンで毎回思うことであるが、演奏会には独特の雰囲気がある。演奏者一人ひとりが渾身の力を込めて音楽を聴衆に伝えようとする気迫が、すごい。聴衆もそれを確実に感じ取っているのである。そして、メンバーの豪華さ。たとえば、豊嶋氏、小森谷氏、矢部氏など日本のオーケストラを代表するコンサートマスターたちをはじめ、ビオラの川本氏、鈴木氏、チェロの原田氏、岩崎氏。フルートのズーン氏、ハープの吉野氏など。もうきりがないが、有名な演奏者たちが勢ぞろいしているのを見ているだけでも、幸せな気持ちになれるのである。コンサートが終わった後は例年、年上の友人たちとレストラン澤田でパーテイーを開くことになっている。夜遅くまで楽しく騒いで、ワインに酔ってレストランを出ると、夜の風と虫の音の思いがけぬ大きさに、夏の終わりを感じたのであった。

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